■イケメンで派遣で友達も彼女もいない俺だけど、平穏
■イケメンで派遣で友達も彼女もいない俺だけど、平穏
なぜ世の中の男性の多くが友達が欲しいやら彼女が欲しいやらで苦しんでいるのかあまり理解できなかった。
それは俺がそうしたものに過去にひと時だけ恵まれていたことがあるからで、そんなものが大したことないと身を持って知っているからなのかもしれない。
俺は中高時代は部活に励んで友達も多くバンドをやっていてチビだけどイケメンだったから相当モテていた。付き合うことはなかったが。
だからいま俺はひきこもったり派遣だったりするなかで友達がまったくおらずに彼女もいないけれど、そのことに対しての葛藤がまったくないのだ。
むしろ過去を振りかえってもう戻りたくないな、なんて思うことのほうが多い。やり直しなんて勘弁だ。
こういうさ若いときの経験の有無ってのには生得的な部分がけっこうある。
いってみれば、ただ人よりも運が良かったってだけだ。それだけなんだけど、それが一生に渡って影響するのだ。
友達が欲しいと彼女が欲しいと嘆いている人の中には俺みたいに過去に一度でも体験していれば執着しない人も多いのだろう。
勿論そうでもない人もいるだろうが、願望が暴走することもなくて身の丈に合った願望になると思う。その差はデカい。
一回でも経験したことがある、ってことがそれだけで人間の価値観に地殻変動が起こるのだ。俺はそれが少しだけ分かった。
持っているやつが持たざるやつの価値観、特に体験の有無が関係する願望を理解するのは難しい。
そこには断絶がある。想像力では飛び越えられない断絶がある。
俺はせめて持っていたものの顔をすることにする。運が良かったと俺は認めることにする。
俺はすでに持っていたという自尊心があるから俺は孤独であることに苦しむことはあり得ないだろう。
運が良かった。本当に運が良かった。
経済的には死にそうなんだけど、孤独や劣等感で死ぬことはない。
ごめん、俺は運が良くて友だちいたしモテてていたからお前のその気持ちはあんまり理解できない。って言う。
そんで、私は運が良くて金を持っていたからお前が貧しくて苦しむ気持ちがあんまり理解できない、って言われる。
そういう感じ。
昔見つけたお宝に執着すれば人生が楽になるってことですか。
最後の「私」って誰?