■帰り道の桜
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会社からの帰り道、いつも駅へのショーカットに使う公園で
缶ビールを片手に女性が遊具から伝線した足を揺らしていた。
視線を辿れば、満開の桜の大樹。
昨晩はどうして気づかなかったのだろうと、自分も足を止めてしばらく見ていた。
しばらく経った頃だろうか。背後の公団団地から子どもの泣き声と母親の叱る声が漏れ聞こえてきた。
中々泣き止まない子どもに母親の焦れったい感じが伝わってくるようだった。
子どもの頃、私も泣き止むことは下手だった。
親の躾に、独りでに零れるものを止めることはできなくて、
鼻の奥をくしゃくしゃにして、痛いほど下瞼を擦って
しゃっくりにも似た喉のえずきを必死で抑えようとしていた。
泣いたらますます叱られるとそんな強迫にも似た気持ちを覚えながら。
そして恥ずかしいことに今も。今日も上司の叱責に泣いた。
仕事で、年次が二番目に古い(といっても一番若い人から二歳しか違わないのだけと)から
という理由で、チームリーダーを任されたのだが、
これをどうすればいい?と持ち込まれた質問の半分が分からない。
最初は上司に伺いにいっていたけど、
結局その場で即答出来ない気まずい雰囲気が嫌で、
途中から上司に直接聞いて、と全部スルーしていたら
帰り際にちょっと、別室へ。
花粉症で良かった。
鼻から下をマスクで覆っていて良かった。
話が終わったとき、色々な機能が死んでいた。
そんなことを思い出して、ため息をついたら、
ふと先ほどの女性が私に缶ビールを掲げているのに気づいた。
とりあえず、鞄を振りかざしたら、社員証や折りたたみ傘が砂場に向かってばさっと凄いことに。
思わず、彼女と顔を見合わせて、どこからともなく吹き出した笑いが夜の公園を覆った。
いつの間にかあの子どもは泣くことを止めていた。
その後、彼女と荷物を拾って、軽い世間話をした。さりげなく電話番号を聞いたら、
やんわりと断られたが、近くのオフィスビルに勤めてるとも、また会うこともあるでしょうとも聞いたので、多分線は切れてない。
池袋から乗り合わせた湘南新宿ライン宇都宮行きのこの列車が今、人を挽きました。
轢かれる方にはならなかった。